エアコンは嫌いです

都内某大学に通う文系大学生のメモ。

悪夢

実家にいると驚くほど深くよく眠れるのだが、1人暮らしのこの家だとそうはいかない。どんなに疲れていても、必ず夢を見る。最近は決まって悪夢だ。

気が狂ったおじいさんに火のついたタバコを投げつけられながら追いかけられる夢、奴隷への拷問を目の当たりにする夢、身内が亡くなる夢。

中でも頻度が高いのは、彼と別れる夢。

1度目は、すれ違いだった。旅行先で、カメラ好きである彼に、被写体になってくれないかと頼まれ、何故か高所恐怖症のわたしが高いところに行かされる。遠くから彼が私を撮る。足が竦んで動けないわたしを置き去りにして、彼は通りかかった女と消える。戸惑いと悲しみで何も言えないでいると、解散しているはずのandymoriのライブの音漏れが聴こえてくる。大好きなバンドに恐怖を忘れて音のもとに向かうと、空き地の隅に人だかり。真ん中で、土管の上に立って演奏しているandymoriがいて、走り出して人混みに飲まれ、音にのまれた。「すごい速さ」だった。アンコールの「teen's」が終わり、涙を流していたらサイン会が始まったため、まっさらのiPhoneの裏側にサインをもらった。部屋に戻ってそれを報告すると、「そんなに自己中な行動ばかりとられては困る。別れたい」と理不尽な理由で別れを告げられ、何も言えないまま目が覚めた。泣いていた。

2度目は、彼の浮気だった。いつも優しい彼がなぜだか少しずつそっけなくなり、おかしいなあと思っていたある日、家に帰ると彼がいた。ただいま、どうしたのと尋ねると、ん、別になど、かわされた。そして彼が、俺さ、好きな子いるんだ、と切り出す。その時すべてを悟り、もう一緒にはいられない悲しみと今まで黙っていた彼への怒りで、彼の胸ぐらを掴み、誰だよ、と凄んだ。誰だと思う?と、なぜか余裕そうに聞いてきたため、彼が付き合う前好きだった人の名前を挙げた。ううん、と彼が言う。つぎに、彼がとても気に入っている美人な後輩(ふたりともわたしにとっては先輩にあたる)の名前を挙げた。彼は動揺した様子で、なんで、と言った。後者には日頃から彼との関係を相談していたから、二人に騙されたと感じて、言葉にならない感情でいっぱいになり、彼の首を絞めたり、殴ったり、蹴飛ばしたり、投げ飛ばしたりした。彼は謝るどころか平然としていた。目が、もうおまえのことは好きではない、と言っていた。疲れて泣き出してしまったときに、後者のあの人が家に来た。鍵がかかっているはずなのに、合鍵を持っていたのだろう、がちゃりと鍵を開け、彼の名を呼んだ。憎しみが爆発し、わたしは殴りかかった。きれいで、あかるくて、おしゃれで、すべてを持っているあの人にとられても仕方がないと分かっていたから、余計憎かった。問い詰めると、わたしと彼が使っているカップルアプリを、彼とあの人も使っていた。そのアプリの待ち受け画面は、あの人の頬に満面の笑みを浮かべてキスをする彼だった。もう耐えられなかった。出ていけ、と怒鳴り、二人を追い出して泣き喚いた。これは夢だこれは夢だ、目を覚ますんだ!と必死になって、目を覚ますと、涙がぽろぽろと溢れてきた。彼を信じたいのに信じられなくなってきて、声を聞いて安心したくて、彼が起きてすぐ電話した。彼はいつも通り、すきだよ、だいすきだよ、早く会いたいなあと幸せそうに話していた。心底安心した。

彼と別れる夢は、不安の現れらしい。彼に振られるのではないかという不安が夢となるのだ。間違ってはいない。

夢ごときにこんなに振り回されて、一日中いやな気持ちになるだなんて、もうあってほしくない。夢なんかのせいで彼を疑いたくない。

夢を見ずに眠れることが保証される薬があれば、それが寿命を縮めるとしても、早急に手に入れたい。